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大魔闘演武の最終日のあの時、彼女の未来を失わないよう、もっと強くなると、前に進むと誓った。
けどどうしたって、剣が彼女の体を貫いたことを、硬い石造りの床を赤黒く染めて冷たくなってしまった感触を、忘れることなんて出来なくて。
ふとした瞬間に思い出しては、胸が引き絞られるような感覚に襲われた。

自分らしくないのはよくわかっている。
今まで前だけを見詰めてひたすら突っ走って来たし、辛いことがあっても立ち止まったりしたことなど無かった。
そんな己でさえ後ろを何度も振り返ってしまうほど、未来のルーシィの死は記憶に大きな傷跡を残した。

彼女は誰よりも自分に近い人間だった。一緒に居れば何時だって楽しくて、笑ってくれると嬉しいし、涙を流すのを見ると苦しくなった。
大切で大切で、身体の一部みたいな存在になっていた。

木々の隙間から見える沢山の星が、こちらに向かって何度も瞬いている。その姿にまたルーシィを連想して、口から思わず重い溜め息が漏れた。
ごろりと寝返りを打ち、森の奥の暗闇に視線を固定してみる。
鼻先を草の香りが掠め、耳は風のそよぐ音を拾う。

「…静かだな」

あの日の出来事が嘘のようだ。
そういえば、エクリプスの扉を破壊した後も、一人でこうして空を眺めたっけ。

傷の手当てをした後、皆が後片付けやら大魔闘演武の閉幕パーティの準備やらに追われている間に、一度こっそり抜け出していた。未来のローグが語っていたことも気にはなったが、そんなことより未来のルーシィの死で掻き乱された心を整理したかった。
人気のない場所で、今と同じように寝転んで居たら、いつの間にか開催の時間が迫っており、慌てて城に転がり込んだ所、王の衣装が置いてある部屋に偶々辿り着いたのだが。

「まあ、あの時よりは大分マシになってっけど…」

痛みは薄れても、忘れることは一生ないだろう。

「にしても、グレイにまで気付かれるようじゃヤベェなー」

それだけ顔に出ていたのだろうか。
ふいに気を緩めたり暇を持て余したりすると、時々あの光景が蘇ってしまうのだ。

大事なものを目の前で奪われたのだから、平然とした顔など出来る筈はないが、一応隠し通していたつもりでいた。しかし、どうも犬猿の仲にはバレてしまったらしい。

「ほんとウゼェなパンツ野郎…」

そうごちると、向きを変え再び空を仰いだ。
一面に広がる星をぼんやりと眺める。

「死んだら星になるんだっけか」

未来のルーシィの星も、何処かにあるのだろうか。
もしかしたら、時代が違うから未来で星になっているかもしれない。
あのルーシィの世界では、彼女を残し、自分は先に死んでいたらしい。自分の星ももしかしたらあるのかもな、と考え、小さく苦笑した。
きっと星になっていても、彼女の星の傍にあることは変わらないだろう。

「ルーシィ…」

煌めく星々へと、右手を伸ばす。
どう足掻いても、届かない、距離。

けど、今を生きているルーシィに手を伸ばせば、困ったように笑いながらも応えてくれるだろう。

「会いてえな…」

彼女は今頃、既に夢の中へと旅立っているに違いない。
そういえば最近彼女の家に行っていなかったなと思い、マグノリアに帰還した後の予定が決定した。

幸い依頼の怪物はとっくに始末している。
夜が明けて出発すればすぐに会える筈だと、沈んでいた心が少し浮上しるのを感じて、星が輝く夜空に向かって歯を見せた。

結局、朝から喧嘩が勃発したことで彼の予定は崩れ、ルーシィ達が迎えに来るまでグレイと殴り合う羽目になったが。

 

 

 

 

 



「ルーシィ」

依頼を受けた森から妖精の尻尾までの帰り道、隣で歩く少女に声を掛ける。
ふわりと金髪を揺らし、彼女はこちらへと振り返った。

「何?」
「今日さ、久しぶりにルーシィん家で飯食いたい」
「ええ!?嫌よ、あんたが来ると食費嵩むじゃない!」

口から出るのは拒絶の言葉。
でも、何だかんだ彼女が自分たちに甘いから。

「今日は豚食いてえな」
「…依頼で倒したやつでも食べてれば?」

だめ押しで言うと、呆れたような視線を寄越された。
これ見よがしに溜め息を吐くと、小さく呻く。

「…今日だけだからね」
「よっしゃあ!肉だ肉!」

本当は彼女と居られることが嬉しいのだが、流石にそれを言うのは照れ臭く、持ち前の食欲で誤魔化した。
むずむずと緩む口元をそのままに、細い手首を捕まえ、前へと足を踏み出す。

「早く帰って食おーぜ!」
「ちょっ!まだ昼間じゃない!お肉は夜ご飯にするわよ!」
「ちぇー。ルーシィのけちんぼ」
「ご飯作ってあげるのにその言われようって!?」

そんなやり取りをしながらも、走る速度は変わらないまま道を駆ける。
後ろからパタパタと着いてくる足音を耳に入れ、彼女が自分に着いてこれるように気にしながらも笑った。

「もーナツ!そんな急がないでってば!」
「やなこった!」

文句を垂れるルーシィも、何処となく楽しそうだ。
それだけで気分は上昇し、上がっていた口角も更に上がった。
ちらっと後ろを振り返ると、後ろを歩いていた他の仲間は、いつの間にか大分遠くに居る。思っていたよりも走っていたようだ。
一度速度を緩め、手首の拘束を解くと、ルーシィが横に並ぶのを待つ。

「ナツ?」
「…ん!」

左手を突き出すと、ルーシィは大きな目をぱちぱちと瞬いた。

「えと…」

暫く思巡する素振りを見せた後、意図が伝わったのか頬を少し染め、おずおずと紋章の入った右手を差し出してきた。
自分のものより一回り小さなそれを包むと、今度はのんびりと歩き出す。
離さないようにと繋いだ感触は、温かく柔らかい。その事実が擽ったく感じる。

「…へへ」
「…んもう」

照れたようにそっぽを向いていたルーシィも、吊られて笑顔が咲いた。

この幸福を、二度と手放さないように。

もっと強くなって、彼女を、彼女の未来を、守り抜きたい。

そう胸の中で誓って、繋いだ指をこっそりと絡めた。

 

 

 

 

 

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