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暗闇に包まれた部屋の中、煌々と輝く月に照らされて、ベッドの上に2つの影が落ちる。
二人の間にあるのは、恋人のような甘い空気ではなく、どこか神妙で厳かなものだった。

向き合って座り込んだ状態で、何を言うでもなく、互いの目を見つめていた。

逸らすことなく、まっすぐに。

不意に、男の無骨な手がシーツの上を滑り、置かれたままの小さな手に触れる。その指先を一撫でし、腕を辿って華奢な左肩まで到達した。後頭部まで進むと、細く柔らかな金糸に手を差し込み、ゆっくりと梳いた。心地好いその感触に、されるがままの少女は目を細める。
髪から手を離し、今度は首筋を撫でた。下へと指先を降ろし、浮き出た鎖骨を親指で丁寧になぞると、身体がぴくりと僅かに揺れた。
その反応に心の中で笑いながら、鎖骨の下、膨らみに触れるか触れないかの部分で手の平を押し当てた。


しっかりと脈を打つ、彼女の心臓。
規則正しく伝わって来る振動に、何故か酷く安堵した。

彼女が生きている、証。

そう認識すれば、胸の奥がじわじわと暖かくなった。
ほう、と息が漏れる。

そのまま、こちらをじっと見ている少女の額に、自分の額をこつりと合わせた。
触れる熱をもっと確かめたくて目蓋を降ろすと、少女が小さく笑う気配がした。衣擦れの音と空気の動きで、こちらへと手を伸ばして来たのを感じ取る。

頬を両手で包まれ、ゆるゆると撫でられた。自分のものとは感触も温度も違うそれに思わず擦り寄ると、くすりとまた笑われる。
少しむっとするが、今はそれよりも彼女の体温を感じていたくて、ちら、と目を向けるだけに留めた。

再び視界を遮断すれば、首筋をおずおずと辿られる。いつも首元を覆っているマフラーは枕の脇に投げ出されていたため、阻むものはない。
右側に残る傷跡をそっとなぞり、自分が先程したように、鎖骨、それから胸板へと細い指が進み、ぴたりと手の平を押し当てられた。
 

溜め息が落とされ、瞳に彼女を映せば、目を閉じる姿を捉えた。月明かりが頬に長い睫毛の影を作っている。

「…生きてるんだね」

ぽつり、と呟かれた言葉に、彼女もまた同じ気持ちなのだと知る。
 

きゅうと胸が緩く締め上げられるような感覚がし、置かれたままだった白い手を縋るように両方とも攫った。
左手には自分の右手を絡め、右手はやんわりと包み込むように左手で握って口元に引き寄せた。驚いて見開かれたその瞳には、月光が映り込んで煌めいた。

「…ああ、生きてる。オレもルーシィも、今こうして」

闘いに身を投じる魔導士は、常に死と隣り合わせだ。
けど、今この場所で、こうやって体温を感じている。お互いが生きていると確かめ合える。

握った手を眺め、象られた紋章を指の腹でなぞった。

出会ってから、一緒に沢山の困難や危険を乗り越え、こうして彼女が傍に居る。
それがとても幸福なことなのだと、痛いほど思い知って来た。

運命など信じない。未来は自分で切り開くものだ。
だから、明日はどうなるかなんて、誰にもわからない。
それでも、願わくばこの先ずっと、彼女と共にあれたらと、誰にともなく祈った。

ああ、でも今は取り敢えず、この世に在り続けている彼女の生命に、感謝の意を込めて。

「…ありがとな」

桜色の妖精が踊る手の甲に、口付けを一つ贈った。

 

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