「ルーシィが一人で仕事に行った!?」
「ええ。今日の朝一で出掛けたわよ」
昼食時とあって、より一層の賑わいを見せる妖精の尻尾に、ギルド一の問題児の声が響いた。
答えた看板娘、ミラは困ったように頬に手を添える。
「明日の夕方ぐらいには戻って来ると思うんだけど…」
「んえー、そんなに待たなきゃなんねえのかよ」
ナツはがっくりと肩を落とし、カウンターテーブルに頭を沈めた。
「ちぇ…。今日は久しぶりにハッピーと三人で仕事しようと思ってたのに」
唇を尖らせ、スツールに座ったことで浮いた足をぶらぶらと揺らした。踵が時折当たってはカツカツと音を立てる。
「たった一日じゃない。すぐに会えるわよ」
「分かってっけどよ…。知ってたらオレも行ったのに」
「ナツだってハッピーだけと仕事に行く時もあるじゃない。ルーシィが一人で行ってもおかしくないわ」
「むぅ…」
反論出来ないナツはむっつりと押し黙ったが、その顔にはでかでかと『不満です』と書いてあった。
ルーシィが居るとどんな時でも楽しい。
ハッピーと一緒に彼女をからかって、ツッコミを入れられて、それが面白くて笑い合う。
今日だって、そんな一日になると期待してギルドにやって来たというのに。
「…早く帰ってこいよ」
ぽつりと呟かれた声を耳にして、ミラはくすりと微笑んだ。
ルーシィが仕事に行った翌日、ナツはカウンター席で溶けていた。
「るーしぃー…」
小さく吐き出された名前は、突っ伏した状態で呼ばれたためにくぐもっている。
すぐ傍に居る青猫は、桜色の頭をぺちぺちと叩き声を掛けた。
「ナツー。昨日からずっとそんなんじゃオイラつまんないよー」
「…シャルルの所に行けばいいだろ…」
「今日はウェンディと仕事に行ってるから居ないんだってば!」
動く気力が微塵も感じられない相棒を前にして、ハッピーは長い溜め息を吐いた。
昨日ルーシィと行く予定だった仕事には結局行かず、彼女の帰りを待つことにしたナツは、今朝からずっとこの調子だ。
ルーシィが一人で仕事に行く際、ナツの生気を丸ごと連れて行ってしまったのかと疑う程だった。
オイラだってルーシィと仕事するの楽しみだったからがっかりしたけど、流石にここまでは落ち込まないよ…。
そう心の中でごちて、ハッピーはナツの頭によじ登った。
「ルーシィと長時間離れるの、これが初めてじゃないじゃないか」
「そーだなー…」
「そんなにショックだったの?ルーシィと仕事行けなくて」
「…」
無言になったナツは、もそもそと動いて腕の上に乗せた頭の位置を直した。
だがそれ以上の動きが見れず、ハッピーは目の前の髪の毛を軽く引っ張った。
「ナツー?」
「…止めろハッピー。禿げる…」
「…」
「…」
「…あ、ルーシィ」
「!?」
スツールを撥ね飛ばして突然立ち上がったナツは、勢いよく辺りを見回した。
求める少女を視界に収めようと探すが、一向に見当たらない。
彼は声のトーンを下げ、頭の上の猫を呼んだ。
「…ハッピー」
「嘘です、あい」
ハッピーは特に気にした素振りもなく、のんびりと言った。
ナツが頭を項垂れると、エーラで宙に浮かぶ。
「お前なあ…」
「そうでも言わないと動かないでしょ」
「うぐ…」
「でもこんな嘘に騙されるなんて、相当参ってるんだね、ナツ」
滅竜魔導士である彼ならば、ルーシィが来ているかどうかなど一発で分かる筈だ。
「…早く帰って来ねえかなあ、ルーシィ…」
「夕方までの我慢だよ」
「…まだ昼間じゃねーか」
窓の外を仰いだナツは陽光の眩しさに目を細めた。
彼女が戻って来るまでにはまだ先が長い。
ナツは倒したスツールを立て直して腰掛けると、退屈な時間を乗り切るために、カウンター奥で食器を片付けていたミラに声を掛けた。
「ミラ、ファイアドリンクくれ」
その後、夕刻に現れた金髪の少女に少年と猫が勢い良く飛び付き、腰に張り付いたまま離れない彼らを扉から出るまで引き摺る羽目になった少女がギルドで目撃されたとか。