『名前を呼ぶ』(お題ったーより)
視界がぐらつく。足がふらつく。体力は殆ど残されていない。
勝機は僅かに残されているか否かという所だ。
でも、ここで諦める訳にはいかない。
「ルーシィ!行くぞ!」
「うん!ナツ!」
名前を呼んでくれる存在が、まだ傍に居るから。
『体液まみれ』(お題ったーより)
「うお!何だこれ!?気持ち悪ぃ!」
「ちょっとぉ!ぬるぬるするんですけど!?」
対峙していた魔物は液体を吐き、二人は見事に紫の粘液まみれになってしまった。
炎で蒸発させようとするが魔物の魔力のせいかなかなか振り払えず、立ち上がろうにも足元が滑り後ろに転倒してしまう。
「こんの…っ!負けてられっかあ!」
言うが早いかナツは跳ね起き、転びかけるも何とかバランスを取って立ち上がった。次いでルーシィが身体を起こすのを手伝おうと手を伸ばした。
「ほれルーシィ!」
「ありがと、ナツ」
一回り大きな手を紋章の入った手が掴んだ。
しかし双方の手は魔物の粘液まみれ、しかも足場までその被害は及んでいる。
ルーシィが起きあがろうと握った手に力を入れた、瞬間。
「すっ、滑る…!」
「バカ!引っ張るんじゃねっ…うお!?」
「きゃあ!?」
ルーシィが足を滑らせたことでナツも足を滑らせ、結局二人とも倒れ込んでしまった。
「いったぁー…」
「お前なあ…」
ルーシィの上に覆い被さっていたナツは身体を起こそうと腕を突っ張った。同時に掌に感じる柔らかい感触。
――どこか触り覚えのあるような…。
そう思いつつもその柔らかな物体を捏ね回すことは止めない。
すると、少年の下に敷かれたルーシィはピシリと固まり、ぷるぷると顔を真っ赤にして震え始めた。
何かあったのかと視線を下げれば、武骨な手に包まれた白く豊かな――胸。
「ナツ…?」
「何だ?」
手を動かし続けながら返答する。
次に襲い来る出来事などとうに予想済みだ。ならばその時が訪れるまで、手の中にある感触を堪能するのみ。
ルーシィは目の前の白いマフラーを掴み上げ、全力で上空へと投げ飛ばした。
「いつまでも触ってんじゃないわよ!!この変態!!」
ナツは空中で回転し、落下した先に居た粘液を吐く魔物もろとも地面に沈んだ。
『焦がれる』
「ルーシィ」
短いたったひとつの単語に、ありったけの想いを乗せて呼ぶ。
この気持ちに気づいたのはいつだったか。
一緒に居るのが心地よくて。好きで、好きで、大好きで。
でも、溢れそうになる感情をぶつければ、彼女を困らせてしまうかもしれないから。
明確な言葉にはしない代わりに、声音に目一杯込める。
「なあに?」
いつもと全く変わらない笑顔を向けてくれると、それだけで嬉しくなる、けれど。
呼ばれた名前の向こうに潜んだ想いなんて知らずに笑う彼女が、酷く憎らしく、愛しい。